2017年5月22日月曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その3

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


まず、中吊り広告は、営業秘密なのでしょうか?
営業秘密は、前に説明したように、下記の3要件を満たすものです。

①秘密管理性
②有用性
③非公知性

これら3要件の具体的な説明は追々やりますが、とりあえず検討を。
②有用性とは、営業秘密管理指針では「その情報が客観的にみて、事業活動にと って有用であることが必要である。 」とされています。中吊り広告は、週刊新潮にとって週刊誌の販売促進に寄与するものであるため、有用性があると考えられます。

③非公知性とは、 営業秘密管理指針では「一般的には知られておらず、又は容易 に知ることができないことが必要である。 」とされています。中づり広告は実際に電車に吊られ、乗客が見ることが可能となるまでは非公知性が満たされていると考えられます。すなわち、中づり広告は、取次会社で管理されている状態では、非公知性があると考えられます。

取次会社が保有している状態にある中づり広告に対する有用性と非公知性については、さほど争点とはならないと考えます。

では、①秘密管理性はどうでしょうか。
まず、秘密管理性とは、営業秘密管理指針では「営業秘密保有企業の秘密管理意思が 秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対 する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。 」とされています。
少々わかりにくいかと思いますが、従業員等(今回は取次会社の従業員)が、その情報が秘密とされていることを認識できるように企業は管理しないといけないということです。
営業秘密管理指針では、管理方法は特に指定されておらず、「秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の 職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なる」としています。より具体的には、秘密管理する情報に対して㊙マークを付したり、当該情報に対して施錠管理やデータへのアクセス管理をしていなくても、従業員等が企業の秘密管理意思を認識できるように企業は管理すればよいとしています。

では、今回の件における秘密管理性はどうでしょうか?
ここで、新潮の記事からは、取次会社が中づり広告を営業秘密として、従業員が認識できるように秘密管理していたとの事実は読み取れません。また、新潮が取次会社に対して中吊り広告を営業秘密として管理するように依頼していた様子もありません。

さらに、新潮の記事の28頁の第4~5段落には下記のようなことが記載されています。
「『文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、"文春とのことは前の担当者から引き継いだ"と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり"前任者から引き継いだと思う"と言っています』文春が本誌の中吊り広告を入手するのは『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていたわけだ。」
この記載からは、取次会社から文春への中吊り広告の貸し渡しは複数人が関与して長年に渡り行われていたと考えられます。
ここからは、私の推察ですが、複数人が関与していたということは、中吊り広告が秘密として管理されていなかったために、文春に貸渡すことに対する抵抗が無い、若しくは薄かったとも思われます。

あくまで週刊新潮の記事からの推察にしか過ぎませんが、これらのなことから、取次会社では新潮の中吊り広告を秘密管理していたとはいえず、新潮の中吊り広告は営業秘密としての3要件を満たさない、すなわち、営業秘密ではないとも考えられるのではないかと思います。
もしそうであれば、営業秘密の不正な取得及び使用という、不法行為そのものが成り立たなくなります。

次回、さらに検討を進めたいと思います。